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【日本語コーチング】「担当の先生を変えてほしい」と言われたこと

あのう、前の担当の先生は空いていないんでしょうか

コーチングを活かした日本語プライベートレッスンをしています。しかし、初期のころは失敗の連続でした。今回は学校に勤めていたころ「担当する学習者のためにがんばろう!」という意気込みが裏目に出て、担当を変わることになったこと、そこから学んだことをお話します。

あるとき、韓国から家族の仕事のために来日した主婦の方の会話のレッスンをしていました。仮にジウさんと呼びます。すでに上級者で、わたしは「正直、教えたり直したりすることがない」と思っていました。

そんなときの教師の役割とは…?を模索しつつ、教科書以外のニュースのネタを用意したり発音を直したり、自分なりには工夫していたつもりでした。しかし、ジウさんはよく悩みごとを話す人で、家族や友人、近所の人のこと…いろいろあるようで、日本語のレッスンと言うよりは悩みをきく時間のほうが長くなっていきました。当時のわたしはこう思っていました。

「話をきくだけで終わっていいの?」「何も教えていない」「レッスン料をもらってるのにいいの?」

教師の役割を果たしてないという気持ちでモヤモヤしていました。そのモヤモヤと焦りから、とってつけたように発音を直りたり表現を教えたり、少し強引に教科書の話題に戻したり。そんなしっくりこないレッスンが続いたある日、ジウさんが学校に相談。

「あのう、前に担当だったA先生は空いていないんでしょうか。」

それで結局、担当を変わることになり、その日はなかなか寝付けないほどショックでした。しかし、今振り返ると「そうなってもしかたがないよなあ」と思うのでした。

クレームは重く受け止めなくてもいい

最初に言いたいのは、仕事の担当を外れることを重く受け止めなくていいということです。当然のことのようですが、仕事は自分の人生の一部であって自分の人格や人生の全てではありません。人によってその重さは違いますが、”人生の全て”ではないと思います。

当時わたしは「仕事を外された=自分を否定された」というふうに仕事と自分をぴったり重ねていたのです。「教師の仕事=自分の全て」であるはずはないのですが、学校の仕事が自分の中で大きな割合を占めていたために、「教師としての評価=自分自身への評価」と考えてしまっていました。そしてそれに気づいていなかったのです。人は毎日を過ごす環境に自分に大きく影響されるものですね。

もしあなたの友人に同じことが起こったら、どんな言葉をかけますか。おそらくこんな感じでしょうか。「あなたがダメってことじゃなくて、ただジウさんには他の先生が合っていたってことじゃないの?」とか。ショックなことや傷つくことがあったら、「友人に同じことがあったらどんな言葉をかけるかな?」と考えてみてください。そして、その言葉を自分にもかけると気持ちが楽になるかもしれません。そうは言っても、また同じことがあったら全く傷つかないということはないと思いますが、少なくとも自分の味方にはなれるかな、と感じます。

セルフコーチング〜学んだことを次に活かす

「ああすればよかった!」と反省はぐるぐる浮かんできます。昔のわたしはクヨクヨと考え続けることが得意ワザだったのですが、そうすると更に気分が落ち込みます。コーチングを学んでからは、その流れを変えることができるようになってきました。肝心なのは実際何が起きたのかを振り返り、これからの行動に活かすことです。

1)わたしの感じたこと、考えたことは?

わたしはジウさんのことを悩みごとの話が長くて困ると感じ、「教師であるわたしが何とかしないと」と抱え込んでいました。しかも、彼女がA先生をリクエストし、担当から外されたことを「わたしは必要がない」とまるで自分自身を否定されたように捉えていたのです。事実はどうあれ、そう思い込んでいたのです。それが、ショックを大きくしていたわけです。

2)そのことから学んだこと、これからすることは?

学習者が話したいのであれば、今の困りごとに寄り添うことが先決です。学習者は何かに心を囚われて勉強が手が付かないことがあります。そのときは、師として日本語を教えるという役割を一旦保留し、話をきくことに集中しようと思いました。そして違和感を覚えたとき、一人で考えず相手と話し合うことです。

過去のわたしは学習者の話が長いとき、少し強引に授業に戻していました。それは今考えると「今日はレッスンでこれをした」「ここまで進んだ」という教師側の達成感を得るためだったのです。

レッスン中に学習者の話がどんどん脱線していく場合は?

レッスン中に学習者(相手)の話がどんどん脱線していって「このまま話してレッスンが終わってもいいのかな」と不安が生じた場合、コーチングでは直接相手にきいてみます。「すみません、ちょっといいですか」と断って、一旦本人に問いかけてみましょう。

「〇〇の話、このまま続けます?」「あと◯分ありますが、どうしましょうか」

この質問をすると残り時間の使い方を学習者(相手)が選ぶことができます。その日は悩みごとの話だけでもよいという場合もありますし、授業の内容に戻るかもしれません。それに、「自分の話をすることは大事な会話練習の一環」と考える学習者も沢山います。レッスンの進め方に迷う場合は、そもそもの目的や時間の使い方などを話し合ってみましょう。


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ABOUT ME
吉田 有美
日本語キャリアサポーター。著書「日本語教師のための はじめてのコーチング」。日本語ボランティア向け「学習者との会話を広げる深めるコミュニケーション」講師として活躍中。個人向けサービス「大人にための自己分析・自己理解」をテーマとするコーチングセッションを行う。日本語学習者への個人レッスンも提供中。