最新の記事
日本語学習支援「傾聴」

共通の話題がなくても大丈夫!日本語学習者と会話を続けるコツ

日本語ボランティア講座に寄せられる様々な質問に回答しています。

日本語学習支援者

学習者と共通の話題が見つからなくて、なかなか会話が進みません。何か良い方法はないでしょうか。

*この記事は日本語個人レッスン、日本語学習支援の初心者の方に向けて書いています。

*日本語教師も日本語ボランティアも日本語学習支援をする人ということで→ここでは「学習支援者」と呼びます。

共通の話題があれば会話が弾むのに…

「学習者と会話が続かない…。共通の話題があれば楽しく話せるはずなのに、なかなか見つからない。」そんな経験はありませんか。

私も学習者と会話が弾まないとき、「何を話せばいいの?」と戸惑うことがありました。

世代間のギャップ、お互いの趣味も違う。なかなか共通点が見つからないことも。

私は小説やエッセイをよく読むけど、学習者は漫画『呪術廻戦』にハマっているみたい。

インドア派で「休日は家でのんびり」と言ったら、相手は「サッカーと筋トレが趣味」。

こちらは最近の流行をよく知らない。相手は最近の音楽やファッションについて話したい。

性格も楽しいと思うことも違うことばかり。

そんなとき、こう思いました。

(私は漫画もサッカーも興味がないし、最近の音楽もファッションも知らない。困ったなあ・・・)

会話の糸口が見つからないと焦りを覚えます。

私の場合、「会話をリードしなければ」と思うほど空回り。

こんなとき、ムリに共通点を探すと話題の範囲がとても狭くなってしまいます。

しかし、共通点がなくても大丈夫なのです!

実は共通の話題がなくても会話は十分に楽しめます。

むしろ共通点を探すよりも学習者との違いに注目し、話を聴くほうがスムーズに会話が続くのです。

共通の話題がないときのトピックは?

「あえて共通点を探さず、学習者の興味関心を中心に会話を進める」ということを提案したいと思います。

そういうと「知らない話題を扱っていいの?」「何を聞いていいかわからない」という不安が出てくるでしょう。

過去の私もそうでした。「自分がよく知っていることなら、話の内容も予想が付くし、何か質問されても答えられる。気持ちに余裕を持って会話に臨むことができるのに…」と。

しかしですね、これは「役割をちゃんと果たしたい」「私が知らない話題は不都合」と思いすぎかもしれません。会話の主役は学習者、なんですよね。

学習者の興味関心を中心に会話を進めることで相手は話す機会が得られるのです。

共通の話題があると、ついつい日本語話者の話が長くなり、学習者が「聞き役」に回ってしまう。すると学習者が話す機会が失われる…ということがありがちです。

それを避けるためにも、支援者は得意な話題をわきに置いて、学習者の関心ごとについて「話してもらおう」「教えてもらおう」という姿勢で話を聴くほうが会話の練習になります。

支援者があまり知らないことで、相手がよく知っていること」こそ良い話題なのです。思いがけない情報や発見が得られるチャンスだと思います。

実践:相手の興味を中心とした会話の進め方

それでは、会話の進め方のステップを紹介します。

ステップ1:関心を示し、学習者に注目する

「漫画が好き」と言われたら、学習者の興味関心に注意を向けること。その漫画が好きだと言っている目の前の学習者自身に注目することが大切です。

学習者自身に注目するというのは、「私が興味のないことにそんなに興味を持っている相手はどんな人なんだろう?」

「なぜ、その漫画がそんなに好きなのだろう?」

「相手の『おもしろい』はどういうことだろう?」という視点で話してもらうことです。ただし、直球でその質問をすると答えに詰まる学習者も多いです。まずは、関心があることを伝えましょう。

例)

「おもしろそうですね」

「興味ありますよ」

「その漫画のこと、もっと教えて」

ステップ2:答えやすい「小さな質問」で会話を続ける

「小さな質問」というのは具体的で簡単な質問、「はい・いいえ」と返事をすることができるような質問を指します。

まず学習者が簡単に答えられそうな「小さな質問」で会話のやり取りを続けます。知っていることを話してもらうのです。最初から自由度の高い質問をすると学習者によっては「それは日本語で難しい」と諦めてしまうことがあるからです。

*どんな質問をしてもすぐ話せる学習者もいますが、ここではなかなか話せない人を想定しています。

例)

「新しい漫画ですか」

「日本の漫画ですか」

「ジャンルは?ミステリー?」

「どんなキャラクターが出てきますか」

*初級者の場合はこの小さな質問でやり取りが続くことだけでも十分に会話練習になります。

ステップ3:「大きな質問」で話を広げる

「小さな質問」で学習者が知っていることをひとしきり話してもらったら、「大きな質問」をしてみましょう。「大きな質問」というのは、答えが決まっていなくて学習者が自由に答えられる質問です。

支援者から「もっと知りたい」と伝えて学習者に質問してください。感想や気になる点を伝えて、「もっと教えて」「もう少し詳しく話して」などと依頼をしたほうが相手は話しやすいです。私は「どんな〜」を使った質問もよく使います。

例)

「漫画がどんなところが面白いと思いますか。」

「そのキャラクターのどんなところが好き?もう少し詳しく話して」

「好きなシーンは?」

「面白かったエピソードを教えて。」

学習支援者からの質問で、なぜその漫画が好きなのかを語ってもらうことで、学習者は自分の考えや気持ち、独自のこだわりポイントなどを話す機会が得られます。母国語でも話したことがないような事柄も出てくるかもしれません。

すると「日本語でまとまりのある説明ができた」という自信につながります。

また、学習支援者からの「あなたの話を聞きたい」「あなたの話は興味深い」という素朴な好奇心は学習者にとって会話の原動力になり、励ましになります

まとめ:今日から実践できること

✅学習者の好きなこと、興味のあることを聞いてみる

✅「もっと教えて」「興味があります」と伝える

✅ 小さな質問から始める

学習者が自分の興味を深掘りできて、それを日本語で表現できたら、うれしいことではないでしょうか。そのために学習支援者が学習者自身に興味を持って話を聴き、順を追って質問することが助けになると考えています。

それではまた!

ABOUT ME
吉田 有美
著書「日本語教師のための はじめてのコーチング」。日本語ボランティア向け「学習者との会話を広げる『聴き方』『質問のしかた』を学ぼう」など、傾聴講座の講師として活躍中。日本語教師歴22年。日本語学習者への個人レッスンも提供中。国家資格キャリアコンサルタント