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日本語学習支援「傾聴」

学習者との会話が続かないときは?

日本語学習支援について講座の参加者から寄せられた質問をもとに書いています。

日本語学習支援者

「学習者から話を引き出そうとして質問しても、短い答えで終わってしまってなかなか会話が続きません。次の質問をしてもまたプツンと途切れてしまいます。相手から会話を引き出すにはどうすればいいでしょうか。

「これから日本語を教えたい方」「日本語教師の経験の浅い方」に向けて書いています。身近な話題についてやり取りができる初級の学習者を想定しています。

*日本語教師、日本語学習支援者、日本語ボランティアなど呼び方がありますが、ここでは便宜上「学習支援者」と「学習者」と呼びます。


質問しても「はい」「いいえ」、短い返答ばかりで会話が続かない。

日本語学習者との会話練習で、こんな経験はありませんか?

私も日本語を教え始めたとき、まさに同じ悩みを抱えていました。

「あと20分もある…どうやって会話を広げよう…」

「会話が続かない。次は何を聞いたらいいのかな(汗)」

「会話練習なのに学習者がなかなか話してくれない・・・」

そう、沈黙ほど気まずいものはないと思っていました。

頭をひねって質問をしてみても、わたしが根掘り葉掘り質問しているだけのよう。

困った、なかなか会話が続かないなあ…。

こういったことはないでしょうか。

私は個人レッスン初期のころよくありました。

でも大丈夫です!

 質問のちょっとしたコツでこの気まずい時間は解消できます。

なぜ会話が続かないのか

一問一答でブツ切れになる会話はこのようになりがちではないでしょうか。

(A=学習支援者、B=学習者)

A「こんにちは、元気ですか」

B「はい、元気です」

A「最近、仕事はどうですか。忙しいですか。」

B「忙しいです」

A「週末はどこか行きましたか」

B「どこにも行きませんでした」

(・・・沈黙)

A「趣味は何ですか。」

B「アニメを見ることです」

A(アニメ…知らないな…)「好きな日本料理は何ですか」

B「焼き鳥です」

・・・(沈黙)

A「(話が広がらない…)スポーツをしますか。」

B「うーん、しません」

・・・(沈黙)


支援者が次々質問し、学習者が短く答えて終わっていますね。学習者は聞かれたことに答えているのですが、「会話をしている」とは感じられないやり取りです。

どうしてこうなってしまうのでしょう?

こちらが「質問しないと!学習者から話を引き出さないと」と前のめりになればなるほど…

なぜか相手の答えが短くなる。

こんな経験、ありませんか。

それで、「会話が続かない」「会話が広がらない」となってしまいます。

しかし、学習者からすると、一生懸命答えているのです。次々と質問がやってきて何だか振り回されているようになってしまう。

それに、自分の答えと関連のない質問をされると、どうでしょうか。

学習者は「私の言ったこと通じているのかな?」と不安になります。「自分の言ったことを受け止めてもらっている」とは感じられないでしょう。

不安を感じるとますます返事が短くなり、会話が続きにくいのです。

学習支援者の応答を少し変えるだけで会話が広がる!

A「趣味は何ですか。」

B「アニメを見ることです」

A「アニメですか。最近どんなアニメを見ていますか

B「呪術廻戦です」

A「へえ、タイトルは聞いたことがありますよ。でもあまり知らないから、ちょっと教えてください」

B「いま、人気ですよ

A「人気なんですね。おもしろいですか」

B「はい、おもしろいです。でもちょっとこわいです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

応答の仕方を見てみましょう。

「アニメですか」→学習者の答えを受け止める。

「最近どんなアニメを見ていますか」→学習者から出た言葉を使って、簡単な質問をしていく。

支援者は「自分の知らない話題だな」と躊躇するかもしれませんが、学習者に話を促していけばいいのです。

質問は尋問にならないように「おもしろそうですね」「たのしそうですね」など興味があることを伝えて聞いてみるのも効果的です。

実践例:こうすれば会話が続く

もう一つ例を挙げます。


A「好きな日本料理は何ですか」

B「焼き鳥です」

A「焼き鳥、おいしいですよね。他にもありますか」

B「焼きそばです」

A「おいしいですよね。よく食べますか」

B「はい、よく食べます

A「どこで食べますか

B「家で食べます

A「ほー家で食べるんですね。自分で作りますか」

B「はい、作ります。簡単です」


初級者の場合、確かに答えが短くなることも多いと思います。

学習者から出た言葉を使って質問していくことで会話が続けられます。学習者の言葉を使うことで「ちゃんと聞いていますよ。あなたの言うことをわかっていますよ」というメッセージが伝わります。すると、学習者は「自分の日本語が通じている」「会話を続けることができている」と自信を持ちやすくなります。

本人の自信こそが会話を広げる原動力になるのです。

会話を続けるコツ:まとめ

✅次々と新しい質問をしない。

✅相手(学習者)から出た言葉を使って話を促す。

✅相手に話を促すときは「おもしろうそうですね」など興味を示して伝える。


 

筆者は日本語教師歴20年以上。主に個人レッスンをしてきました。今ひとつコミュ力の足りないことを自覚したときから、日本語の教え方もさることながら、『学習者とのコミュニケーション』について悩み、試行錯誤してきました。その悩みを解消すべく、インタビュースキル、コーチング、キャリアカウンセリングを学んだことから書いています。似たような悩みを持つ方のお役に立てればうれしいです。

【著書】日本語教師のための「はじめてのコーチング」 「コーチングって何?」「日本語のレッスンで実際どうするの?」 初めてコーチングに触れる方に読みやすい本を書きたいと思って...
ABOUT ME
吉田 有美
著書「日本語教師のための はじめてのコーチング」。日本語ボランティア向け「学習者との会話を広げる『聴き方』『質問のしかた』を学ぼう」など、傾聴講座の講師として活躍中。日本語教師歴22年。日本語学習者への個人レッスンも提供中。国家資格キャリアコンサルタント