チーズが入ったナンを焼くのは苦痛を伴う仕事だ。
(P9)
この本は、ビゼイ・ゲワリ 田中雅子監訳・編著(2022)『厨房で見る夢』-在日ネパール人コックと家族の悲哀と希望-上智大学し出版です。最近、町で1,2軒は見かけるネパール人が働くインド料理店。以前から少し疑問だった。「どの店でも接客が似ていてメニューには必ずネパール料理のモモがある」「店内に貼られたネパールの山々のポスター」「ネパール人の帽子をかぶったコック」…そして、コックたちのほとんどは簡単な日本語さえもわからないようだ。この本を読んで、その理由とコックたちが来日した背景、仲介業者に多額の費用を払う”呼び寄せビジネス”の実態を知ることができた。
彼らは貧困に苛まれるネパールの一般大衆を代表している
(P17)
来日するコックたちの多くは、国で仕事がなく、なんとか海外で仕事を得て生活費や教育費を送金することを目的としていて、コックの経験がない人も多いそうだ。(そのため、窯でナンを焼くとき火傷をすることも多い。チーズナンは特に難しいそうだ)多くのコックは仲介業者に多額の借金をして渡航するが、低賃金のため返済は用意ではない。
長時間労働、異国でのストレスから身体やメンタルの問題を抱える人も少なくない。日本語が話せないことから病院に行ったりするのが難しいようだ。「技能」の在留資格で来日しているためインド・ネパールレストラン以外で働くことができないというのも、彼らを長時間労働・低賃金から逃れられなくしている。どうすればいいのだろうか?
(呼び寄せビジネスは)道徳的または倫理的な点を無視できるなら、これはとても儲かるビジネスだ
(P64)
コックから経営者になる人もいて、その人達はネパールからコックを呼び寄せる”呼び寄せビジネス”に加わるケースがよくあるそうだ。自分たちが来日した方法で、今度は自分が仲介業者となって渡航費用や更新料を払わせる側になる。売上げが苦しいレストランで、こうした連鎖が繰り返され、似たような店が増え、来日する人も増えてくる。
中には成功して国に社会貢献をしている人や大地震のときに大きな支援をした人もいるということだから、ものごとには多様な面もあるのだろう。しかし、仕事がなく貧しい人に多額の借金を追わせるビジネスに加担する人は心が痛くないのだろうか。たとえ、違法でなくても倫理的に問題だと思わないのだろうか。この本の中では技能実習生や”働く”留学生にも触れていたけれど、日本側にも問題があると思う。
これから街でネパール人の働くレストランを見るたび、この本を思い出すだろう。もともとナンよりロティやごはんが好きでよかった。